H2-1 2026年のワイヤレスイヤホン高音質競争はどこへ向かうのか
ワイヤレスイヤホンの世界では、この数年で「そこそこ聴ける」から「有線にかなり近い」と感じられるレベルまで、音質が一気に引き上がりました。その裏側で大きな役割を果たしてきたのが、Bluetoothの音声圧縮方式である「コーデック」です。
2025年までは、SBC・AAC・aptX系・LDACなどがそれぞれのポジションで役割を担い、「AndroidならLDACやaptX、iPhoneならAAC」といった選び方がある程度定番化していました。では、2026年以降はどうなるのでしょうか。
今見えている大きな流れは、「規格としての標準」はBluetooth LE Audioに含まれる新コーデック LC3 に移行しつつも、「とことん音質を追求したい層」向けには LDAC や aptX Lossless といった高ビットレート/ロスレス系コーデックが併存する二階建て構造です。
つまり、「みんなが当たり前に使うベースの音」はLC3が担い、その上に趣味性の高い高音質コーデックが乗ってくる、という形に近づいていきます。この記事では、まずコーデックの基本から整理しつつ、LC3・LDAC・aptX系それぞれの位置づけと、今後数年どんなイヤホン選びをすればよいのかを掘り下げていきます。
H2-2 まず整理:Bluetoothオーディオ「コーデック」とは何者か

コーデックとは、ざっくり言えば「音声データを圧縮して送るためのルール(方式)」です。ワイヤレスイヤホンでは、スマホ側で音楽データを圧縮し、それをイヤホン側で展開して再生する必要があるため、このコーデックの種類によって「音の情報量」「遅延」「電波の安定性」「バッテリー持ち」などが大きく変わります。
Bluetoothオーディオの世界では、最低限どの機器でも使える「SBC」という基本コーデックがあり、その上にApple系でよく使われる「AAC」、Androidでおなじみの「aptX系」、さらにハイレゾ相当のビットレートを狙った「LDAC」「LHDC」などが存在します。それぞれ、音質重視なのか、省電力・低遅延重視なのか、といった設計思想が異なります。
大事なのは、「コーデックの名前=音質のすべて」ではないものの、同じイヤホンでも対応コーデックによって出せる実力の上限が変わるということです。そして今、Bluetooth規格そのものが世代交代しつつあり、新世代のLE Audioでは「SBCに代わる新しい標準」として LC3 が採用されています。ここを押さえておくと、なぜ各メーカーが「LE Audio対応」「LC3対応」をアピールし始めているのかが見えてきます。
次の見出しでは、2025年までにどんなコーデックが主役だったのかを一度整理し、そのうえでLC3・LDAC・aptX Losslessの立ち位置を掘り下げていきます。
H2-3 2025年までの主役:SBC・AAC・aptX・LDACの役割分担
2025年までのワイヤレスイヤホン市場では、「どのコーデックを積んでいるか」でその製品のおおよその立ち位置が見える、というくらい役割分担がはっきりしていました。ここでは、SBC・AAC・aptX・LDACがそれぞれどんなポジションを担ってきたのかを、ざっくり整理しておきます。
まずは全Bluetooth機器が必ず対応している「SBC」です。これは“最低限どの組み合わせでも音が出るための共通語”のような存在で、音質・遅延ともに「とりあえず使える」レベルに留まります。最近の安価なワイヤレスイヤホンでも、SBCだけで勝負しているモデルは減ってきましたが、いまだに「対応コーデックの最下段」に名前が出てくる基礎的な方式です。
次に、Apple製品を中心に広く使われているのが「AAC」です。AAC自体は音楽配信用でも広く使われている圧縮方式で、ビットレートの割に音質が良く、iPhone+AirPods系の組み合わせでは非常にこなれたチューニングがされていることが多いです。その一方で、Android端末側のAAC実装品質にはバラつきがあり、「AAC対応なら必ず高音質」というわけではない点も、オーディオ好きの間ではよく語られてきたポイントです。
Android陣営で存在感を発揮してきたのが「aptX」ファミリーです。標準のaptXはSBCより高音質で、遅延も抑えられるため、ミドルレンジ以上のイヤホンで“とりあえずこれが入っていれば安心”という位置付けでした。さらに、ゲームや動画を意識した低遅延特化の「aptX LL(Low Latency)」、音質と遅延のバランスを取りつつ可変ビットレートで賢く振る舞う「aptX Adaptive」など、用途別のバリエーションも増え、Androidユーザーにとっては「aptX対応=そこそこ以上」の目安になっていた時期が長く続きました。
そして、ハイエンド寄りのオーディオファンから強い支持を受けてきたのが「LDAC」です。最大990kbpsという高ビットレートで伝送できるのが特徴で、理論上はハイレゾ相当の情報量をワイヤレスで飛ばせることから、ハイレゾ対応DAPやハイエンドAndroidスマホとの組み合わせで“現状最強クラスのBluetoothコーデック”と見なされてきました。その反面、電波状況にシビアで、ビットレートが実力通りに出ない場面もあり、遅延もそれなりに大きいなど、「音質を取る代わりに安定性やレイテンシーを犠牲にしている」性格もはっきりしています。
まとめると、SBCは“共通語”、AACは“Apple系の標準”、aptX系は“Android向けのバランス型”、LDACは“音質最優先のハイエンド向け”という形で、2025年までのコーデック市場は綺麗に棲み分けされてきました。ここに、次世代のBluetooth規格であるLE Audioと、その中核であるLC3が加わることで、この勢力図がどう塗り替えられていくのか——というのが、2026年以降を考えるうえでのポイントになってきます。
H2-4 次世代本命候補「LC3/LE Audio」とは何か

ここまで見てきたSBC・AAC・aptX・LDACは、いずれも「Bluetooth Classic」と呼ばれる従来方式の上で動くコーデックでした。それに対して、LC3は「Bluetooth LE Audio」という新世代規格のために設計された、まったく新しい系統のコーデックです。位置づけとしては「SBCの後継」、つまり“みんなが当たり前に使う標準コーデック”として設計されています。
Bluetooth LE Audio自体は、「低消費電力で、多人数・多デバイスに柔軟に音を飛ばす」ことを重視した新しい仕組みで、LC3はその中核となる音声圧縮方式です。従来のSBCよりも少ないビットレートで同等以上の音質を実現できるよう作られており、その分、電池持ちや接続の安定性、多チャンネル化(左右独立・マルチストリーム)に余裕を持てる点が大きな特徴です。
つまりLC3/LE Audioは、「究極のハイレゾ音質を目指すためのコーデック」というより、「日常的に使うワイヤレスオーディオ体験のベースを底上げするための土台」としての意味合いが強い存在だと言えます。
H3-4-1 LC3が「新しい標準」と呼ばれる技術的な理由
LC3が「次の標準」と言われる一番の理由は、「圧縮効率」と「ロバストさ」のバランスが非常に優れている点です。従来のSBCでは、ある程度のビットレートを確保しないと音質が一気に崩れやすく、ビットレートを下げる=露骨に音が悪くなる、というトレードオフが強く出ていました。
それに対してLC3は、同じビットレートで比較するとSBCよりも明らかに音質が良く、逆に「SBCと同等の音質を、より低いビットレートでも実現できる」ように設計されています。これにより、伝送に使う帯域を抑えつつ、接続の安定性や複数ストリームの同時利用に余裕を持たせられるわけです。
さらに、LC3はフレーム構造や誤り耐性の面でも見直しが入っており、パケットロスや電波状況の悪化に対しても、耳障りな破綻を起こしにくいよう配慮されています。SBCでは「一瞬ノイズが入る」「音がガサッと乱れる」といった崩れ方をしやすかった場面でも、LC3では比較的なめらかに劣化させる設計が取られているため、「実際の使用感」としての品質が底上げされやすい構造になっています。
こうした「低ビットレートでも破綻しにくい」「省リソースでそこそこ以上の音を出せる」という性格が、スマホ〜イヤホン間だけでなく、テレビ・PC・補聴器・会議システムなど、多様な機器で共通の標準として使いやすい理由になっています。
H3-4-2 LC3がもたらす低遅延・省電力・マルチストリームのメリット
LC3/LE Audioのもう一つの大きなポイントは、「音質」以外のユーザー体験も大きく改善しやすい設計になっていることです。代表的なのが、低遅延・省電力・マルチストリームの3つです。
まず低遅延の面では、LC3自体がフレーム長を短くできる構造になっており、LE Audioのパケット構造と組み合わせることで、従来のSBCや一部aptX系よりも映像とのズレを感じにくいレベルまでレイテンシーを抑えやすくなっています。ゲーム用途で専用の低遅延モードに頼らなくても、「標準状態でそこそこ速い」という方向に寄せやすくなるのは、今後の大きなメリットです。
次に省電力性です。前述の通り、同等の音質をより低いビットレートで実現できるため、無線伝送に必要なリソースを抑えやすく、その分だけイヤホン側・送信側のバッテリー負荷を軽減できます。IoT機器や補聴器のようにバッテリー容量がシビアなデバイスにとっては、この効率の良さが寿命や製品設計の自由度に直結します。
最後にマルチストリームです。LE Audioでは、左右のイヤホンを完全に独立したストリームとして扱ったり、一つの送信機から複数の受信機へ同時に音を配信する「ブロードキャスト(Auracast)」のような仕組みが規格レベルで用意されています。LC3はこのマルチストリーム前提で設計されているため、「左右それぞれに個別の音を送る」「複数の人が同じ音を同時に聞く」といった新しい使い方を、現実的なビットレートの範囲内で実現しやすくなります。
こうした要素を総合すると、LC3/LE Audioは、「音質マニアを唸らせるための超ハイレゾコーデック」というより、「これからの“当たり前のBluetoothオーディオ体験”を底上げするための標準基盤」として位置づけると理解しやすいはずです。
H2-5 それでもLDACが高音質ファンに支持され続ける理由
LC3が「新しい標準」として着実に広がりつつある一方で、音質にこだわる層からの評価が高いままなのがLDACです。カタログスペック上のビットレートだけを見てもインパクトがあり、「Bluetoothなのにここまで情報量を飛ばせるのか」という驚きを最初に与えたコーデックのひとつと言えます。
実際、同じ楽曲をSBCやAAC、一般的なaptXと聴き比べると、環境さえ整えば「音場の広さ」「細かなディテールの出方」「高域の抜け」などでLDAC優位と感じるケースは多く、ハイレゾ配信サービス+Android+対応DAP/スマホ+対応イヤホンという組み合わせで、その“旨味”を最大限味わおうとするユーザーが一定数存在します。
つまりLDACは、「誰にとっても最適な万能コーデック」というより、「多少の不便や制約を受け入れてでも、ワイヤレスでできるだけ高い解像度と情報量を取りに行きたい人」のための選択肢として支持され続けている、というのが実態に近いポジションです。
H3-5-1 ビットレートと音質面での優位性
LDACの一番の売りは、最大990kbpsという高いビットレート設定です。これはSBCやAAC、標準的なaptXと比べると頭ひとつ抜けた数値で、シンプルに「時間あたりに送れるデータ量が多い=より多くの音の情報を残せる」方向に振り切った設計になっています。
もちろん、ビットレートが高ければ必ず音が良くなるわけではなく、コーデック自体のアルゴリズムや実装の質、DACやアンプ、イヤホン側のチューニングも音質を左右します。それでも、同じ実装レベルで比較したときに「情報量を削りにくい」方向へ振っているLDACは、細かな残響や楽器の分離感、ダイナミクスの表現などで有利になりやすいのは確かです。
また、LDACはビットレートを自動的に切り替える「AUTO(自動)」モードや、接続優先モード、音質優先モードといった設定を持つことが多く、ユーザーが「安定性と音質のどちらを優先するか」をある程度選べるのも特徴です。音質優先モードで990kbps近辺を維持できる環境が整えば、有線接続と比べても「かなりいい線まで来た」と感じられるケースがあり、それがオーディオファンの心を掴んでいる部分と言えます。
H3-5-2 LDACの弱点:電波環境・遅延・対応機種のクセ
ただし、LDACにははっきりした弱点もあります。まず、大きなビットレートを要求するということは、その分だけ「電波環境にシビア」になるということです。電波が弱い場所や、人混み、2.4GHz帯が混雑している環境では、ビットレートが自動的に下げられたり、一瞬音飛びやノイズが出たりすることがあります。
さらに、LDACはレイテンシー(遅延)の面でも、ゲームやリアルタイム性の高い用途にはあまり向いていません。動画視聴レベルなら許容範囲に収まることも多いですが、音ゲーやFPSのような「音と操作タイミングのシビアさ」が求められるジャンルでは、低遅延特化コーデックや有線接続に分があるのが現実です。
対応機種のクセという意味では、LDAC対応をうたっていても、端末側の設定で明示的に有効化しないとSBCやAACのまま動いているケースがあったり、メーカーごとに「自動モードの挙動」「優先モードの実装」が微妙に違ったりする点も挙げられます。Androidでも一部SoCやカスタムUIによっては挙動が変わるため、「LDAC対応=常に最高音質で動く」と思い込むと、期待外れになることもあります。
こうした弱点を踏まえると、LDACはあくまで「環境を整えたうえで、音質を最優先に楽しみたい人向けのコーデック」と割り切って使うのが現実的です。普段使いの安定性や低遅延、バッテリー持ちなどを重視するならLC3やaptX Adaptiveなどに任せつつ、「じっくり音楽を聴くときだけLDACに切り替える」というような使い分けが、今後はますます増えていくかもしれません。
H2-6 aptX Losslessという新勢力:ロスレスBluetoothの現在地
LDACが「高ビットレートでできるだけ情報量を残す」アプローチだとすれば、aptX Losslessは「条件が整えばCDクオリティを“ロスレス”で飛ばす」ことを目指したコーデックです。登場時から「ついにBluetoothでロスレスか」というキャッチーなキーワードで注目されましたが、実際のところは対応環境や使い方にいくつか条件があり、まだ“誰にでも恩恵がある標準機能”という段階には到達していません。
それでも、aptX Losslessは「ワイヤレスでもCDクオリティをきちんと担保したい」というニーズに対する一つの答えとして、ハイエンド好き・ガジェット好きの間でじわじわ存在感を増しているのは確かです。ここでは、その仕組みと強み、そして現状の制約について整理しておきます。
H3-6-1 aptX Losslessの仕組みとスペック上の強み
aptX Losslessは、Qualcommの「Snapdragon Sound」プラットフォームの一部として提供されるコーデックで、最大約1Mbps超の帯域を使い、CDクオリティ(44.1kHz/16bit)の音声を可逆圧縮(ロスレス)で伝送できることを売りにしています。つまり、スペック上は「有線でCD音源を聴くのと同等の情報量を、Bluetooth経由でも失わずに届けられる」というのが最大のウリです。
ただし、常に1Mbps+ロスレスで動くわけではなく、電波環境やバッテリー状況に応じてビットレートを可変させる設計になっており、条件が悪いときにはロッシーなモードに降りることもあります。それでも、「条件が整えばロスレス、崩れてもそこそこの音質を維持する」という設計思想は、LDACが「高ビットレート固定」で環境に振り回されやすいのとは少しベクトルが異なります。
スペック面で見ると、CDクオリティまでに限れば「理論上は情報を落とさない」ことが保証されているため、「ハイレゾまで要らないが、CD音源くらいはちゃんとそのまま聴きたい」というユーザーには非常に魅力的です。LDACのようにハイレゾ領域のビットレートを追いかけるのではなく、「CDクラスを確実に取り切る」方向に舵を切っている点が、aptX Losslessならではの強みと言えるでしょう。
H3-6-2 対応環境の制約と「Snapdragon Sound」エコシステム
一方で、aptX Losslessには現時点ではっきりした制約もあります。それは、「送信側・受信側の両方がQualcommのSnapdragon Soundエコシステムに対応している必要がある」という点です。つまり、aptX Losslessをフルに活かすには、
- Snapdragon Sound対応のスマホ(多くはQualcomm SoC搭載のAndroid)
- aptX Lossless/Snapdragon Sound対応のイヤホン・ヘッドホン
という組み合わせが必須になります。iPhoneはもちろん、MediaTekや自社SoCベースのAndroid端末、PCなどでは、当面このエコシステムから外れたままになる可能性が高く、「どんな機器でも気軽に使える標準コーデック」という立場にはなりにくいのが実情です。
また、同じSnapdragon Sound対応でも、メーカーごとに実装状況やUI上の見せ方が異なり、「どの状態で今aptX Losslessでつながっているのか」が分かりづらいモデルも存在します。そのため、現時点でaptX Losslessを狙って購入するのは、「対応端末と対応イヤホンをきちんと調べて揃える」ことをいとわないガジェット好き・オーディオ好きが中心になるでしょう。
総じて言えば、aptX Losslessは「ロスレスBluetooth」というキャッチコピー通り、スペック的には非常に魅力的なコーデックですが、対応環境の制約やエコシステム依存の強さから、今のところは**“Snapdragon Sound陣営の上級オプション”**というポジションに留まっています。今後対応機種がどこまで広がるか次第で、その存在感は大きく変わっていくはずです。
H2-7 2026年以降の構図:標準LC3+趣味層向けLDAC/aptX Losslessという二階建て
ここまで見てきたように、2026年以降のワイヤレスイヤホン市場は「ひとつのコーデックがすべてを支配する」というより、用途とユーザー層で役割が分かれた二階建て構造になっていく可能性が高いです。日常的に使うスマホ+完全ワイヤレスイヤホンの組み合わせでは、Bluetooth LE Audioの中核であるLC3が“新しい普通”として広がりつつ、その上の階層でLDACやaptX Losslessといったハイエンドコーデックが、オーディオファンやガジェット好きの選択肢として並走していく、というイメージです。
メーカー側の視点で言えば、「すべてのユーザーにLC3で快適なベース体験を提供しつつ、上位モデルではLDACやaptX系を積んで“音質重視層にも刺さる武器”を持たせる」という戦略が取りやすくなります。ユーザー側から見れば、まずはLC3対応かどうかを前提条件としてチェックし、その上で「どこまで音質を追い込みたいか」に応じてLDACやaptX Lossless対応モデルを選ぶ、という階段構造で考えるのが現実的になっていくでしょう。
H3-7-1 大多数ユーザー向け「LC3標準時代」のイヤホン事情
多くのユーザーにとっては、「とにかく安定して使えて、音も十分良くて、バッテリーが長く持ってくれればOK」というのが本音だと思います。そういう意味で、LC3が標準化していく流れは、かなり“現実的な進化”です。SBCよりも少ないビットレートで同等以上の音質を確保できれば、接続の安定性が上がり、電池持ちも伸び、同時接続やマルチストリームにも余裕が出る——つまり、スペック表以上に「使い勝手の総合点」が底上げされる方向だからです。
LC3標準時代のイヤホン選びでは、「どのコーデックに対応しているか」よりも、
- LE Audio(LC3)対応かどうか
- マルチポイント/マルチストリームに対応しているか
- バッテリー持ちやケース込みの総再生時間
- ノイズキャンセリングや外音取り込みの実装の良さ
といった要素が、いま以上に重要になってくるはずです。逆に言えば、「SBCオンリーだからダメ」「AACだから即NG」といった単純なラベリングは少しずつ意味を失い、LC3が入っているかどうかを起点に、機能全体で製品を比較する時代に入っていくと考えられます。
H3-7-2 オーディオファン向けハイエンドコーデックの棲み分け
一方で、オーディオファンやレビューを書く側からすると、LC3だけでは物足りない場面も出てきます。「標準としては十分だけど、もっと情報量が欲しい」「ロスレスやハイレゾクラスまで攻めたい」というニーズに対しては、今後もしばらくはLDACやaptX Losslessといったハイエンドコーデックが主役であり続けるでしょう。
棲み分けとしては、ざっくり次のようなイメージです。
- LDAC系
- ハイレゾ配信や高ビットレートストリーミングを前提に、「ワイヤレスで可能な限り有線に近づけたい」人向け。
- 多少の遅延や安定性の揺らぎより、音の情報量と解像度を優先したい場合にフィット。
- aptX Lossless系
- CDクオリティをロスレスで届けることを重視し、「ハイレゾまでは要らないが、CD音源くらいは完璧に再現したい」というニーズに応えるポジション。
- Snapdragon Sound対応端末+対応イヤホンという“閉じたエコシステム”の中で、スペックを追い込みたい人向け。
レビューやブログで取り上げる際には、「標準としてのLC3」と「趣味層向けのLDAC/aptX Lossless」を意図的に分けて評価軸を語ると、読み手にも伝わりやすくなります。具体的には、
- 一般ユーザー向けには「LC3対応+全体の完成度」でおすすめする
- オーディオファン向けには「LDAC/aptX Lossless対応+実測の音の印象」で掘り下げる
という二段構えにしておくと、記事全体の説得力も増しますし、「誰にとってどのコーデックがベストなのか」を明確に整理してあげられます。
:今後数年、コーデックでチェックしておきたい項目リスト
H2-8 目的別・ユーザー別に見る「これからのイヤホン選び」
コーデックの世界が二階建てになっていくのを踏まえると、これからのイヤホン選びは「誰が・どんな使い方をするのか」で見るポイントを変えた方が、ずっと判断しやすくなります。ここでは、「一般ユーザー」と「音質マニア/レビューを書く側」という二つの視点に分けて、チェックすべき項目を整理してみます。
H3-8-1 一般ユーザー:まずチェックすべきスペックはここ
一般ユーザーにとって、一番大事なのは「毎日ストレスなく使えるかどうか」です。コーデック名そのものを深く追うより、まずは次のポイントからチェックするのがおすすめです。
1つ目は、BluetoothのバージョンとLE Audio対応です。今後しばらくは「Bluetooth 5.2/5.3+LE Audio(LC3)対応かどうか」が、標準的な使い勝手の良さを左右する大きな分岐点になります。パッケージや公式ページに「LE Audio」「LC3」「Auracast」などの表記があるかを、まず確認してみてください。
2つ目は、バッテリー持ちとケース込みの再生時間です。高音質コーデックを積んでいても、実使用で数時間しか持たないようでは、日常使いではストレスになります。公称の連続再生時間に加えて、「実際のレビューでどのくらい持ったと言われているか」も横目で見ておくと、スペック値とのギャップを掴みやすくなります。
3つ目は、ノイズキャンセリング(ANC)や外音取り込みの出来です。通勤・通学・カフェ作業など、生活の中での使い勝手を考えると、コーデック以上に「ノイキャン性能と自然な外音取り込み」のほうが体感への影響が大きいことも多いです。最近のモデルでは、このあたりの完成度が価格帯ごとにかなり差が出るので、コーデックは「LC3が入っていれば十分」、その上でANCや装着感、操作性などを総合的に見て選ぶ、というくらいのバランス感で見ると失敗しにくいと思います。
H3-8-2 音質マニア・レビュワー視点で見るべきポイント
一方で、音質マニアやイヤホンレビューを書く側からすると、チェックすべきポイントはもう少し細かくなります。
まず前提として、送信側(スマホ・DAP)と受信側(イヤホン)の双方がどのコーデックに対応しているかを正確に押さえることが重要です。たとえば、Android+LDAC対応イヤホンなら「LDAC/ハイレゾ相当」、Snapdragon Sound対応スマホ+aptX Lossless対応イヤホンなら「ロスレスCDクラス」というように、組み合わせごとに“狙える最大値”が変わります。レビューを書くなら、「どのコーデックで試聴したか」を明示しておくと、読者にとって親切です。
次に、同じイヤホンでコーデックを切り替えて聴き比べることです。LDACとaptX Adaptive、AACとLC3など、可能な範囲で複数モードを試し、「音場の広がり」「高域の伸び」「低域の締まり」「ボーカルの定位」などがどう変わるかを自分の耳で確認しておくと、単に「対応している/していない」以上の具体的なコメントが書けるようになります。
また、遅延と安定性の評価も、マニア・レビュワーなら触れておきたいポイントです。音楽単体では気にならなくても、動画視聴やゲームでのリップシンク、混雑した駅構内での音切れ具合など、現実的な利用シーンでの挙動はコーデックと実装の組み合わせで大きく変わります。「LDAC高ビットレート時はここが弱い」「aptX Losslessはこの組み合わせだと安定していた」といった具体的な情報は、読み手にとって非常に価値があります。
最後に、レビューを書く側としては、「LC3(LE Audio)は標準としてどうか」「そこからどれだけLDAC/aptX系で“味付け”できているか」という二層の視点を意識しておくと、記事全体の説得力が増します。同じイヤホンでも、「標準コーデックで見た評価」と「ハイエンドコーデックを使ったときの伸びしろ」を分けて書いてあげると、読者は自分の環境に置き換えて判断しやすくなるはずです。
H2-9 まとめ:今後数年、コーデックでチェックしておきたい項目リスト
最後に、今後数年ワイヤレスイヤホンを選ぶうえで、「コーデックまわりでここだけは見ておきたい」というチェック項目をリストにしておきます。
- Bluetoothバージョンが 5.2/5.3 以上か
- LE Audio/LC3 に対応しているか(=新世代標準の恩恵を受けられるか)
- 自分のスマホ/DAPと組み合わせたときに、LDAC/aptX Adaptive/aptX Lossless など、どのコーデックが実際に使えるか
- 高音質コーデック利用時のバッテリー持ちと接続安定性
- ゲームや動画での遅延(低遅延モードやLC3の素のレイテンシー含めて)
- ノイズキャンセリング・外音取り込みなど、コーデック以外の総合完成度
このあたりを押さえておけば、「とりあえず有名メーカーだから」「安いから」という理由だけで選んで後悔するリスクはかなり減らせます。今後は、LC3を中心とした“標準の底上げ”が進みつつ、上のレンジではLDACやaptX Losslessなどが「趣味としてどこまで追い込むか」を決めるためのツールになっていくはずなので、その二層構造を意識しながら、自分に合ったイヤホン選びや記事作りをしていくと良いと思います。


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